日本総合口腔医療学会では、歯科医師・医師だけでなく、獣医師にも学会への参加を求めております。近年、人間とペットとの係わり合いが家族と同等のレベルまで濃密である以上、両者が生物・生命体としての関連を考察すれば医療においても同等の考察が必要かと存じ上げます。人間と動物が相互の理解を深めるためには、獣医師の参加が本学会の理念構築の上においても必定と捉えております。
 恐れながら、歯科医師・医師側に立脚した論説に偏っているきらいがあることをご容赦願いつつ、下記にまとめましたのでご査証くださいませ。

1.近年になって、動物が持つ細菌類やウィルスの中には、人間には感染しないと考えられていた種がありましたが、その判定が覆される状況になっています。
獣医師は、動物における対処法(例えば抗菌薬の使い方)を熟知しておられますが、獣医師にとっての常識が歯科医師・医師に浸透していない分野があります。
もし動物から人に感染した細菌やウィルスなどが流行した場合に、感染源が動物側にあると判定できて、その病原菌についての知識を得ようとする間に病態に対処するのが後手になってしまいます。そもそも動物由来の病原菌に感染したと判明した患者さんを確定診断することが困難であり、歯科医師・医師らは「原因不明」との診断結果を下すか、あるいは誤った診断方向に迷走してしまうことになります。
従って獣医師が修得しておられます動物医療の知識を、歯科医師・医師が予め習得することは、本学会は必要・必然だと考えております。獣医師の参加により想定外の感染症にも、あるいは想定されている感染症にも適切な治療法を正確にかつ速やかに施せることを嘱望しております。このことは結果的には、後述の人と動物の相互の利益向上に通じると考えております。

2.近年、人間同様に動物においても食生活の変化から口腔疾患、とりわけ歯周病の原因菌が動物においても全身疾患の発症の一因となっているのは周知のことと思われます。しかしながら、日本の獣医科大学においてはまだ、「獣歯科学」の科目は標榜するに至っておりません。獣医師においては、歯科医師の有する専門知識から、動物に発症する口腔領域の疾患に対して有意義な歯科学的知識は多いと自認させていただいております。
本学会は、人と動物の分野の垣根を越えた医療知識の相互研鑽とその融合は、やがて日本における「獣歯科学」の確立の可能性を見出しております。
最近は、ペットの疾病に対する民間の保険会社が提供する医療保険がありますが、認識の低さと摘要範囲の狭さから加入者数は少ないとの状況をお聞きしております。将来ペットに対して、歯科学の専門分野の口腔ケアの姿勢や口腔予防学の措置が流布し、そしてこのことから世間の評価が高まることを期待しております。その結果、ペットに対する医療保険の適用範囲拡大によって、重大な疾患に罹患する前にこれらの要因を予め低く抑えることが可能となります。同時にペットがいる家庭への経済的な負担も減少させることもできますし、獣医師にとっても難易度の高い外科的手術の機会を極少に留めることとなります。
本学会は、人が健康保険に加入していることにより過大な恩恵を受けている事実を願わくば、動物レベルのペット皆保険にまで引き上げて相互の健康維持による幸福感の達成も視野に捉えておりますことをご理解賜りたく存じ上げます。