学会理念

1.かつて父権主義のもとに医師主導で行われてきた医療において、その意志決定は患者ではなく医師の側にありました。しかしながら、患者の権利が重視され患者自身が医療行為の決定に参加するようになったのは1960年にはじまる医療批判、およびその後のインフォームド・コンセントや情報公開の流れによります。つまり医療において患者の選択が尊重されるようになったわけです。いわゆる「おまかせ」医療から脱却し、患者の自律心による医療を進めようという動きが出てきたのは当然の帰結といえます。そしてまた、患者は医師から提供された情報をもとに主体的に意思決定し、治療法を選択するようになりました。このため医師は患者に対して治療の詳細を説明し、患者の同意により治療を行うようになりました。

2.最近の消費社会と高度情報社会、さらに患者自身のもつ権利意識の高まり、これらの影響により医師と患者の関係は新しい局面に移行しつつあります。必然的に、「医療提供者」としての医師と「医療消費者」である患者との関係においては、患者は治療方針決定に際して医師への選択肢提示を求め、また一方で医療というものが医師と患者との合意の上で進められるようになりました。そして、患者は医療機関を訪れる前にインターネットなどのメディア、および周囲の人からの口コミなどにより、医学情報を事前に得ることが多くなりました。この様にして集めた知識と情報をもとに、患者は医師というものと、自分に適した治療内容とを選ぶことができるようになりました。すなわち、患者は医療に主体的に参加し意志決定を行うことで、医師は患者の求めに応じ、いかなる治療を行うのか、について詳細に説明する必要が生じたのです。

3.上述1、2のために、医師は医療に関する情報を患者に極力、提供しなければなりません。しかし、医療情報は専門的で高度に複雑です。さらに現代は医学、医療ともに専門細分化され、単に情報を患者に提供したのでは、患者の治療選択は困難となります。このように、医療において最善の結果を得るためには、医師の提供する情報、あるいは知識について患者側が理解する、という行為において不利にならないことが求められます。しかしながら、医療人の研鑽は医師、歯科医師が自発的に参加する形式の講習会や研修会がもっぱら中心であり、体系的とはいえない、偏った知識の修得になる危険性をはらんでいます。

【学会の方針】
 以上の現状より、「日本総合口腔医療学会」は患者中心の全人的医療を理解し、患者の視点にもとづく総合的な問題解決が可能な医療人を育成することを目的とし、ひいては国民の健康回復・健康増進を図ることを希求します。

【活 動】
1.口腔総合診療医(Oral Generalist)の養成
 患者の多彩な要望に応えられる幅広い知識と技術を有する口腔総合診療医(Oral Generalist)の養成と、医療技術の進歩に合わせて質の良い医療人を育成します。

2.講演会、セミナーおよび資格試験の実施
 口腔総合診療医は何よりもまず、医学知識や診療体系の急速な進歩に対応できるよう、医療について分野横断的な広い知識と技術を持ち、ヒトを総合的に診ることが求められます。そのために本学会は知識・技術の習得の場を提供し、さらには資格試験を行い認定し国民が分かるよう開示していきます。

3.病診連携の促進
 さらに高い専門性が必要と判断される患者については、専門病院および専門医との連携を図るなど、病診連携を促進します。学会では口腔総合診療医に関する研修や教育、研究を推進すると共に、再生医療等の高度先進医療の研究や獣医歯科学など多彩な口腔医療への取り組みを行います。

4.情報の発信
 本学会は。主に症例報告と研究論文を掲載した学会の機関誌とニューズレターを発行し、口腔総合診療医に関する様々な情報提供を行います。