解剖学

 

担当講師:高橋 理 (神奈川歯科大学・教授)

 

解剖学  嚥下にみられる比較解剖学

 

 ヒト新生児,乳児は嚥下と呼吸を同時に行うが,成長とともに嚥下と呼吸を同時に行うことは不可能となる.この事実は頭蓋骨が四足獣から直立歩行するヒトへ適応し変化したことに起因する.そして軟口蓋と喉頭蓋との接触がヒトへの進化とともに不可能となった経緯を示す.また嚥下運動は神経学的にみると,ヒトの成長とともに顔面神経優位から三叉神経優位の状態へと変化する.ヒトの加齢変化にみられる誤嚥にかかわる諸問題は,これら頭蓋骨,軟組織そして脳神経と表情筋,咀嚼筋の協調性が失われた結果に基づくものと考えられる.


 
解剖学  咀嚼,嚥下運動を支配する脳神経にみられるヒトの特徴


 解剖学用語はヒトの構造を基準に定められる.しかしヒトの身体を研究するためには動物が進化した過程を系統発生学的にまず見極める必要がある.歯科領域を支配する脳神経もまたいくつかの大きな特徴をもつため,体幹,体肢にみられる脊髄神経とは異なる研究の概念が必要となる.本発表では脳と三叉神経系の系統発生学的な話題に焦点をあてて,あらためてヒトの咀嚼,嚥下運動の特異性を神経学的に考察する.